家族信託(民事信託)で考える相続・財産管理 【第2回】 家族信託の設定方法と信託契約書の作り方
家族信託を始めるには何が必要か
家族信託を設定するには、主に「信託契約書の作成」と「財産の移転手続き」が必要です。一見複雑に感じるかもしれませんが、流れを把握すれば理解しやすくなります。今回は、家族信託を始めるまでのステップを順に解説します。
家族信託設定の基本ステップ
- 信託の目的・内容を家族で話し合う
- 専門家(行政書士・司法書士・弁護士・税理士等)に相談する
- 信託契約書を作成する(原則として公正証書で作成)
- 信託口口座(信託専用の銀行口座)を開設する
- 信託財産を受託者へ移転する(不動産の場合は登記変更)
- 信託の運用開始
それぞれのステップについて、詳しく見ていきましょう。
ステップ1:家族で話し合いを行う
家族信託は、家族間の合意と信頼を前提とする制度です。まず、委託者(財産を持つ方)と受託者(管理を任される方)が十分に話し合い、「何のために」「誰に」「何を」「どのように」管理してもらうかを明確にすることが出発点です。
特に重要なのは「信託の目的」を明確にすることです。たとえば、「認知症になっても自宅を維持できるようにしたい」「賃貸不動産の管理を子どもに委ねたい」「相続税対策も兼ねて財産を承継させたい」など、目的によって信託の内容が異なります。
ステップ2:専門家への相談
家族信託は、民法・信託法・税法など複数の法律が関係する複雑な制度です。信託契約書の作成には専門知識が必要であり、不適切な設計では思わぬ法的・税務的リスクが生じることもあります。行政書士・司法書士・弁護士・税理士などの専門家に相談することを強くおすすめします。
| 各専門家の役割・行政書士:信託契約書の作成、コンサルティング・司法書士:不動産信託登記の手続き・弁護士:法的トラブル対応、複雑な契約設計・税理士:信託に関する税務申告・節税対策 |
ステップ3:信託契約書の作成
信託契約書は、家族信託の「設計図」ともいえる最重要書類です。記載すべき主な内容は以下のとおりです。
| 記載事項 | 内容・ポイント |
| 信託の目的 | 何のために信託を設定するかを明記します。目的に反する行為は受託者ができません。 |
| 委託者・受託者・受益者 | それぞれの氏名・住所・生年月日等を正確に記載します。 |
| 信託財産の特定 | 信託に組み入れる財産(不動産・預金等)を具体的に特定します。 |
| 受託者の権限 | 受託者がどの範囲で財産を管理・処分できるかを定めます。 |
| 信託の終了事由 | 信託が終了する条件(受益者の死亡等)を定めます。 |
| 残余財産の帰属先 | 信託終了後の財産を誰に帰属させるかを定めます。 |
信託契約書は、公証役場で公正証書として作成することが強く推奨されます。公正証書にすることで、①偽造・改ざんのリスクがなくなる、②法的効力が明確になる、③紛失しても原本が公証役場に保管される、といったメリットがあります。
ステップ4:信託口口座の開設
家族信託では、受託者が信託財産(現金・預金)を自分の個人財産と分けて管理するために、「信託口口座(しんたくぐちこうざ)」を開設する必要があります。信託口口座は、一般の口座と異なり「委託者〇〇受託者△△信託口」などという名義になります。
ただし、現在のところ信託口口座の開設に対応している金融機関は限られており、事前の確認が必要です。また、金融機関によって対応方針が異なりますので、専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
ステップ5:信託財産の移転
信託契約書を締結したら、実際に財産を信託財産として受託者に移転します。
- 現金・預金:信託口口座に入金します。
- 不動産:法務局で信託登記(所有権移転登記+信託登記)を行います。登記費用(登録免許税等)が発生します。
- 株式・有価証券:対応している証券会社で名義変更等の手続きを行います(制約がある場合があります)。
信託設定にかかる費用の目安
家族信託の設定には一定の費用がかかります。あくまで目安ですが、以下のような費用が発生することが多いです。
| 費用項目 | 金額の目安 |
| 専門家報酬(行政書士・司法書士等) | 30万円〜100万円程度(信託財産の規模・内容による) |
| 公正証書作成費用 | 数万円〜十数万円程度(財産額・枚数による) |
| 信託登記費用(不動産) | 登録免許税は固定資産税評価額の0.4%(土地は0.3%)等 |
| 信託口口座開設 | 金融機関によって異なる(無料〜数万円程度) |
費用は決して安くありませんが、長期的な財産管理・相続トラブルの予防効果を考えると、十分に検討する価値があります。
まとめ
家族信託の設定は、①話し合い→②専門家相談→③契約書作成→④口座開設→⑤財産移転、というステップを踏んで進めます。特に信託契約書は家族信託の核心部分ですので、専門家のサポートを受けながら慎重に作成することが大切です。
次回(第3回)では、家族信託と「財産管理委任契約」の違いと比較について詳しく解説します。

